咳が止まらない時はどうしたらよい?
原因となる病気・対処法について解説
咳(咳嗽)が止まらず、 ときには数週間にわたり咳嗽が続き、生活に支障をきたすことがあります。
咳嗽が止まらない原因はいったい何でしょうか?
本記事では、咳嗽の意味、原因、診断方法、慢性咳嗽の原因となる疾患の診断基準、治療法について解説します。
またよくみられるQ&Aもご紹介します。
これを読めば、咳嗽の概要が分かります。
咳嗽が止まらない時に役立ててみてください。
咳嗽とは
「咳」は医学用語で「咳嗽(がいそう)」というため、本記事では「咳嗽」と記載します。
咳嗽は気道内に侵入した異物を排除するための生体防御反応であり、頻度が極めて高い症状の一つです。
咳嗽は以下のように分類されます。【1】
喀痰の有無による分類
喀痰(かくたん)を伴う場合と伴わない場合では治療法が異なるため、喀痰の有無によって2種類に分類されます。
湿性咳嗽
喀痰を伴う咳嗽です。気道内の喀痰を排除しようとする生体防御反応であり、治療の主目的は喀痰を減らすことです。
乾性咳嗽
喀痰を伴わない咳嗽であり、原因となる疾患に特異的な鎮咳治療が必要です。【1】
咳嗽の持続期間による分類
咳嗽がみられるようになってからどのくらいの期間続いているかによって3種類に分類されます。
急性咳嗽
発症後3週間以内の咳嗽
遷延性咳嗽
3~8週間続く咳嗽
慢性咳嗽
8週間以上続く咳嗽
持続期間が長くなるほど、原因疾患として感染症の頻度は低下し、非感染症の頻度が増加します。
近年、聴診や胸部X線、喀痰検査で異常がないのに慢性的に咳嗽が続く症例が増えています。【1】
咳嗽の原因となる疾患
気道にある咳受容体を刺激する疾患が咳嗽の原因となりえます。
以下のようなさまざまな疾患で咳嗽がみられます。
- 上気道炎
- 副鼻腔炎:いわゆる蓄膿(ちくのう)
- 後鼻漏症候群:大量の鼻水がのどへ流れ込む症候群
- 喉頭アレルギー:アレルギーにより喉頭の粘膜が刺激されて咳嗽が続く疾患
- 急性気管支炎・肺炎
- 結核・非結核性抗酸菌症:抗酸菌の感染症
- 気管支喘息
- 慢性気管支炎・慢性閉塞性肺疾患
- びまん性汎細気管支炎:細い気管支に慢性の炎症が起こる疾患
- 気管支拡張症:何らかの原因で気管支が広がる疾患
- 間質性肺炎:肺の間質というところに炎症が起こる肺炎
- 肺がんなどの腫瘍
- 睡眠時無呼吸症候群:眠っている間に短時間呼吸が止まる疾患
- 薬剤による咳嗽:ACE阻害薬など
- 職業性・環境因子による咳嗽:粉塵が多い職場などで起こる【2】
急性咳嗽の原因としては上気道炎などの感染症、いわゆる風邪が最も多く、遷延性、慢性と持続時間が長くなるほど、感染症の頻度は低下し、咳喘息などの頻度が増します。【1】
慢性咳嗽の主な原因
日本において慢性咳嗽の原因となることが多い疾患を示します。
咳喘息
アレルギーによって気管支に炎症が生じ、咳だけが起こる喘息
アトピー咳嗽
アレルギーによって気管に炎症が生じ、咳が起こる疾患
副鼻腔気管支症候群
慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎を合併した疾患
胃食道逆流症
胃の内容物が食道に逆流する疾患
感染後咳嗽
気道感染によって咳をする神経が過敏になって生じる疾患【1】
咳嗽が止まらない実例
ここで咳嗽の実例をご紹介します。
30歳男性のAさん、風邪をひいた後に、咳嗽が3週間も続いています。
1日中咳嗽がみられるわけではなく、早朝や深夜になると発作的に咳き込みます。
喘息かと思い、近隣の内科を受診しました。
「先生、これって喘息ですか?」
「喘鳴がないから喘息ではないでしょう」
そういわれて、胸部X線検査を受けましたが、特に異常はみられません。
咳止めをもらって帰宅しましたが、その後も咳嗽が続きます。
昼間でも、冷たい空気を吸ったり、煙を吸ったりしたときに咳嗽が出るよるになりました。
その後も咳嗽が続き、すでに2カ月余り経っています。
Aさんは困り果て、ネットで呼吸器内科を調べて受診しました。
問診、診察、血液検査、さらに呼気一酸化窒素検査というのを受けて、「咳喘息」と診断されました。
吸入ステロイド薬を処方され、治療を続けたところ、咳嗽はほとんど全く出なくなったのです。
この病気は喘息か?
もともと気管支喘息は、「ヒューヒュー」「ゼイゼイ」といった喘鳴が出て息苦しくなる疾患です。
気道に炎症が続き、刺激に対して敏感となり、発作的に気道が狭くなります。
Aさんの症状は、喘鳴は全くないため、気管支喘息ではありません。
ところが近年、咳嗽を起こす疾患の研究が進み、咳だけみられる喘息が発見されて、咳喘息と名付けられました。
Aさんの場合、この咳喘息で咳嗽がみられていたのですね。
咳嗽が止まらない時の診断方法
咳嗽が止まらない時、専門医は問診、聴診、胸部X線検査、血液検査、喀痰検査、肺機能検査などにより原因疾患を鑑別します。
問診
医師は問診により、咳嗽の好発時間、喀痰・発熱などの随伴症状、咳嗽の増悪因子を探ります。【1】
聴診
胸部の聴診でラ音を認める場合、特異的な原因疾患を疑います。
また喘鳴を伴わない喘息で、勢いよく息を吐くときに軽度の笛音が聴取される場合があります。【1】
胸部X線検査・CT検査
肺がん、肺結核など器質的な疾患を鑑別します。【1】
血液検査
感染症やアレルギーを調べる検査です。
- 白血球数、好中球分画、CRPなどの炎症反応
- Mycoplasma pneumoniaeやChlamydophilia pneumoniaeなどの抗体価
- 結核のインターフェロン遊離試験
- 末梢血好酸球分画、血清総IgE値、抗原特異的IgE値【1】
喀痰検査
自発的に喀出した痰、もしくは高張食塩水吸入により喀出を誘発した喀痰で細胞診、培養検査を行います。
細胞診では、悪性細胞の有無、細胞分画が好中球優位(感染症)なのか好酸球優位(アレルギー性疾患)なのかを調べます。
培養検査では一般細菌培養・抗酸菌の塗抹培養を行います。【1】
肺機能検査
息を吸ったり吐いたりして数値を測る検査です。
呼吸器科専門の医療機関では詳しい肺機能検査を、一般の医療機関では簡易スパイロメーターを用いた肺機能検査を行います。
咳喘息では、FEV1, FEV1/ FVC, PEFが時に軽度低下し、MMFなど末梢気道閉塞の指標がしばしば低下します。
また咳喘息で検査時に咳症状がみられる場合、β2刺激薬の吸入15~30分後に FEV1を再度測定すると、一秒量の改善が認められることがあります(気道可逆性試験)。【1】
呼気一酸化窒素(NO)測定検査
呼気中のNO濃度は下気道の好酸球炎症を反映し、気管支喘息の診断に有用です。
また咳喘息においても呼気中のNOが増えることがあります。
全ての喘息で増加するわけではないのですが、NOが増えている場合、喘息の診断に役立ちます。【3】
慢性咳嗽の原因となる疾患の診断基準
慢性咳嗽の原因となる頻度が高い疾患の診断基準を示します。
咳喘息
- 喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上続き、聴診でもwheezeを認めない
- 気管支拡張薬(β刺激薬またはテオフィリン製剤)が有効
参考所見
- 末梢血・喀痰で好酸球が増えることがある
- 呼気中のNO濃度が高くなることがある
- 気道過敏性が亢進
- 症状に季節性や日差があり、夜間から早朝に咳嗽が多い【1】
アトピー咳嗽
- 喘鳴や呼吸困難を伴わない咳嗽が3週間以上続く
- 気管支拡張薬が有効
- アトピー素因を示唆する所見または誘発喀痰中の好酸球増加
- ヒスタミンH2拮抗薬またはステロイド薬で咳嗽発作が消失
アトピー素因を示唆する所見
- 喘息以外のアレルギー疾患の既往
- 末梢血好酸球増加
- 血清総IgE値の上昇
- 特異的IgE抗体陽性
- アレルゲン皮内テスト陽性【1】
副鼻腔気管支症候群
- 8週間以上続く呼吸困難を伴わない湿性咳嗽
- 次の所見のうち1つ以上を認めること
- 後鼻漏、鼻汁、咳払いなどの症状
- 敷石状所見を含む口腔咽頭における粘膿性の分泌液
- 副鼻腔炎を示唆する画像所見
- 14・15員環マクロライド系抗菌薬8週間投与で改善【1】
胃食道逆流症
8週間以上続く咳嗽で、以下のいずれかの条件を満たすこと
- 胸やけ、酸味を伴うげっぷなどの食道症状
- 咳払い、嗄声などの咽頭症状
- 咳嗽が会話、食事、体動などにより悪化
- 気管支拡張薬、吸入ステロイドなどの治療が無効あるいは効果が不十分
もしくはプロトンポンプ阻害薬などの治療で咳嗽が軽快する【1】
感染後咳嗽
- 風邪症状が先行
- 遷延性咳嗽、慢性咳嗽を起こす他の疾患を除外できる
- 自然に軽快する【1】
咳嗽が止まらない時の治療法
咳嗽が止まらない時の病態に応じた治療方針を示します。
器質的な気道病変が認められる場合
疾患に特異的な治療を行います。
たとえば肺炎ならば抗生物質で、気管支喘息ならばステロイド吸入薬で治療するなどです。
器質的な気道病変が認められず膿性痰がみられる場合
胸部X線検査・CT検査などで異常が認められず、かつ以下のような状態ならば、マクロライド系あるいはレスピラトリーキノロン系抗菌薬を1週間以上投与して治療します。
- 感冒様の症状が先行している
- 周囲に同様の症状をもつ人がいる
- 膿性の喀痰が続いている
器質的な気道病変が認められず改善傾向がみられる場合
以下のような改善傾向が認められる場合は経過観察とします。
- 症状のピークが過ぎている
- 喀痰の色が黄色から白色に変化
- 喀痰量が減少
咳嗽が8週間以上続く場合
経過観察後、慢性咳嗽と考えられる場合、診断基準にしたがい鑑別診断します。
または試験的に治療して改善すれば、その疾患と診断することも可能です。
咳喘息・アトピー咳嗽
2週間の吸入ステロイド治療で症状が改善すれば、この疾患と考えられます。
改善しない場合、他の原因を考えます。【1】
副鼻腔気管支症候群
14・15員環マクロライド系抗菌薬8週間投与で改善すれば、この疾患と考えられます。
改善しない場合、他の原因を考えます。【1】
胃食道逆流による咳嗽
プロトンポンプ阻害薬8週間投与で改善すれば、この疾患と考えられます。
改善しない場合、他の原因を考えます。【1】
感染後咳嗽
2週間の対処療法で症状が改善すれば、この疾患と考えられます。
改善しない場合、他の原因を考えます。【1】
咳嗽が止まらない時の治療薬
一般的に咳嗽が止まらない時は、いわゆる「咳止め」をのんだら治ると考えるでしょう。
しかし咳嗽を起こす原因疾患によっては、咳止めをのんでも効かないことがあります。
原因疾患の病態に合わせた治療薬を使わないと治らないのです。
咳嗽に効く薬には、鎮咳薬、気管支拡張薬、去痰薬、抗炎症薬、抗ヒスタミン薬が含まれます。【4】
鎮咳薬
いわゆる咳止めであり、延髄の咳嗽中枢に作用して咳を抑える薬です。
- リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデインなど:麻薬性鎮咳薬、効果が高い
- ノスカビン、臭化水素酸デキストロメトルファンなど:非麻薬性鎮咳薬【4】
気管支拡張薬
塩酸メチルエフェドリン、メチルエフェドリンサッカリン塩などです。
交感神経を刺激して気管支を拡張させ、咳嗽や喘鳴を鎮めます。【4】
去痰薬
気道粘膜からの分泌を促して去痰を容易にするものと、痰の粘りけを減らして去痰を容易にするものがあります。【4】
抗炎症薬
塩化リゾチーム、トラネキサム酸などは、気道の炎症を抑えます。
ステロイド吸入薬もこれに含まれます。【4】
抗ヒスタミン薬
マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クレマスチンなどは、アレルギーに起因する咳嗽に対し、鎮咳薬や気管支拡張薬、抗炎症薬の働きを助けます。【4】
咳嗽が止まらない時に関するQ&A
咳嗽が止まらない場合、よくみられるQ&Aを示します。
Q:咳嗽が止まらないのは何の病気ですか?
A:急性咳嗽の原因としては上気道炎などの感染症、いわゆる風邪が最も多くみられます。
遷延性、慢性と持続時間が長くなるほど、感染症の頻度は低下し、咳喘息などの頻度が増します。
また肺がん、間質性肺炎など重篤な病気もありえます。【1】
詳しくは本文の第2章をご覧ください。
Q:熱はないのに咳が止まらない原因は何ですか?
A:風邪などの感染症では発熱を伴うことが多いですが、大半の感染症以外では熱はないのに咳嗽がみられます。【1】
原因としてさまざまな疾患が考えられますので、詳しくは本文の第2章をご覧ください。
Q:子どもの咳が止まらない時の原因は?
A:子どもの咳嗽でも大人とほぼ同様の原因が考えられますが、クループ、小児喘息、肺炎、気管支炎などの頻度が高い傾向があります。
また心因性咳嗽が原因のこともあります。【2】
Q:咳嗽が止まらないときは何科に行けばよいですか?
A:咳嗽を起こす疾患を専門にするのは呼吸器内科です。
したがって咳嗽が止まらない時は呼吸器内科を受診してください。
ただし副鼻腔炎の場合、さらに耳鼻科へ紹介されることがあります。
Q:咳嗽が止まらない時、どんな薬が効く?
A:咳嗽の原因によって薬が異なるため、全ての咳嗽に効く薬はありません。
咳嗽が止まらない時は、呼吸器内科を受診して原因を調べてもらい、原因疾患に合わせた適切な治療を受けましょう。
まとめ
咳嗽は気道内に侵入した異物を排除するための生体防御反応であり、頻度が極めて高い症状 の一つです。
急性咳嗽の原因としては上気道炎などの感染症、いわゆる風邪が最も多く、遷延性、慢性と持続時間が長くなるほど、感染症の頻度は低下し、咳喘息などの頻度が増します。
咳嗽が止まらない時、専門医は問診、聴診、胸部X線検査、血液検査、喀痰検査、肺機能検査などにより原因疾患を鑑別します。
本記事では、慢性咳嗽の原因となる頻度が高い疾患の診断基準を示しました。
咳嗽が止まらない時は、呼吸器内科を受診して原因を調べてもらい、原因疾患に合わせた適切な治療を受けましょう。
参考資料