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脂質異常症とはどのような病気?ガイドラインにそって解説

こんにちは。かず内科クリニック神戸垂水の院長の中村和宏です。

健康診断でコレステロールが高いのに放置していませんか?

コレステロールが高いまま放置していると、心筋梗塞や脳卒中、大動脈解離や大動脈瘤の原因になります。

一方で、コレステロールは、細胞膜やホルモン、胆汁酸の原料でもあります。
高脂血症の治療は、リスク(年齢、性別、たばこ、高血圧があるか、糖尿病があるか、心臓発作や脳卒中を起こしたか、家族に心臓発作があるかetc)に応じて、どれくらい悪玉コレステロールを下げるか、が決まっています。

脂質異常症は、高血圧、糖尿病と並んで知られる生活習慣病です。

それでは脂質異常症とは、どのような病気なのでしょうか?

本記事では、脂質異常症の定義、診断基準、症状、動脈硬化性疾患に対する影響、原因、治療について解説します。
これを読めば、脂質異常症の概略が分かります。
脂質異常症を治療する際に役立ててみてください。

1.脂質異常症とは

脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態です。
具体的には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常を含みます。
脂質異常症は動脈硬化の促進と関連するため治療が必要です。

2.脂質異常症の診断基準

脂質異常症は、脂質の血中濃度を測定し、以下の基準にそって診断します。

LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL未満(空腹時※) 高トリグリセライド決勝
175mg/dL未満(随時採血※)
Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高Non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高Non-HDLコレステロール血症

※10時間以上の絶食を空腹時、空腹時であることを確認できない場合を随時と呼びます。

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3.脂質異常症の症状

脂質異常症の自覚症状はほとんど全くありません。
一部の方で、上まぶたの内側部に黄色の扁平な隆起(眼瞼黄色腫)がみられます。

4.脂質異常症の動脈硬化性疾患に対する影響

脂質異常症が長期間続くと、動脈硬化が進んで動脈硬化性疾患を引き起こします。
脂質異常症は冠動脈性疾患、脳梗塞の発症率や死亡率に影響します。

4-1. 高LDLコレステロール血症の影響

高LDLコレステロール血症は、男性における冠動脈疾患の発症率や死亡率を高めます。
女性では有意な影響はありません。
一生の間に冠動脈疾患を発症する確率(生涯リスク)は以下のとおりです。

45歳の男性において
  • LDLコレステロール160mg/dL未満の群:13.7%
  • LDLコレステロール160mg/dL以上の群:47.2%
75歳の男性において
  • LDLコレステロール160mg/dL未満の群:10.7%
  • LDLコレステロール160mg/dL以上の群:44.5%
45歳の女性において
  • LDLコレステロール160mg/dL未満の群:7.1%
  • LDLコレステロール160mg/dL以上の群:10.2%
75歳の女性において
  • LDLコレステロール160mg/dL未満の群:6.4%
  • LDLコレステロール160mg/dL以上の群:7.5%

高LDLコレステロール血症は、男女ともに脳梗塞の発症率を高めます。
逆にLDLコレステロールが高いほど脳出血の発生率は低くなります。

4-2. 総コレステロール増加の影響

高コレステロールが増加すると、男女ともに冠動脈疾患で死亡する確率が高まります。

  • 総コレステロール220mg/dL以上の群は、220mg/dL 未満の群の1.55倍
  • 総コレステロール240mg/dL以上の群は、240mg/dL 未満の群の1.79倍
  • 総コレステロール220mg/dL以上、血圧160mmHg以上の群は、総コレステロール180mg/dL未満、血圧120mmHg 未満の群の4.4倍

また総コレステロールが増加すると、脳梗塞を発症する確率が高まります。

4-3. Non-HDLコレステロールの影響

Non-HDLコレステロールは、LDLコレステロールと同様に心筋梗塞の発症に関連します。
Non-HDLコレステロール値が170mg/dL前後から、冠動脈疾患・心筋梗塞の発症・死亡リスクが高まります。
45歳の男性が一生の間に冠動脈疾患を発症する確率 は以下のとおりです。

  • Non-HDLコレステロール190mg/dL未満の群:12.7%
  • Non-HDLコレステロール190mg/dL以上の群:41.5%

なお女性では有意な差はみられません。
また Non-HDLコレステロールは、脳卒中に関しては関連がないという報告があります。

4-4. HDLコレステロールの影響

HDLコレステロールの低値は、冠動脈疾患や脳梗塞の発症リスクとなります。

  • 40~49mg/dLの群に比べて、40mg/dL未満の群はリスクが1.3~1.6倍です。
  • 90mg/dL以上と極端に高い場合も、冠動脈疾患や脳梗塞の死亡率が高いという報告があります。

4-5. トリグリセライドの影響

空腹時トリグリセライド150mg/dL 以上、随時トリグリセライド175mg/dL以上で冠動脈疾患の発症率が増加します。

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5. 脂質異常症の原因

過食、運動不足、肥満、喫煙、アルコールの飲み過ぎ、ストレスなどが原因となって、脂質異常症は起こります。

5-1. 飽和脂肪酸のとりすぎ

食事により飽和脂肪酸をとりすぎるとLDLコレステロールが増えます。

5-2. コレステロールのとりすぎ

食事中のコレステロールもLDLコレステロールを増やします。
ただし個人差があり、飽和脂肪酸よりも影響が少ないとされます。

5-3. エネルギー量のとりすぎ

エネルギー量をとりすぎるとトリグリセライドが増えます。

5-4. 運動不足・肥満・喫煙

運動不足・肥満・喫煙によってHDLコレステロールが低くなります。

5-5. 遺伝的な要因によって起こる脂質異常症

  • 家族性高コレステロール血症
    • 未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上
    • 腱黄色腫あるいは皮下結節性黄色腫
    • 2親等以内の血族に家族性高コレステロール血症あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴
      のうち2項目以上が当てはまる場合、家族性高コレステロール血症と診断します。
      300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人程度認められます。
      冠動脈疾患を発症する確率が10~20倍、末梢動脈疾患を発症する確率が5~10倍になると報告されています。
      そのため早期診断・治療が必要です。
      脳卒中に対する影響は明確でありません。
  • 原発性高カイロミクロン血症
  • 原発性高コレステロール血症
  • 家族性Ⅲ型高脂血症
  • 原発性高トリグリセライド血症
  • 原発性高HDL-C血症

5-6. 続発性脂質異常症

他の病気によって引き起こされる脂質異常症です。

  コレステロール トリグリセライド
甲状腺機能低下症  
ネフローゼ症候群
慢性腎臓病  
原発性胆汁性胆管炎  
閉塞性黄疸  
糖尿病
肥満  
クッシング症候群
褐色細胞腫
薬剤性 薬剤の種類に依存

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6. 脂質異常症の治療

脂質異常症においては、病気にならないように予防すること、病気の重症化を防ぐことが大切です。

  • 一次予防:生活習慣の改善により病気の発生を防ぐこと
  • 二次予防:病気や障害の重症化を防ぐこと

脂質異常症の治療は以下のような手順にそって行います。

  1. スクリーニング
  2. 危険因子の評価およびリスクの層別化
  3. リスクに応じた治療指針の決定
  4. 脂質異常症、高血圧、糖尿病、その他の疾患の管理目標の設定
  5. 生活習慣の改善
  6. 薬物療法

6-1. スクリーニング

問診、身体所見、検査結果から脂質異常症を診断

6-2. 危険因子の評価およびリスクの層別化

以下の手順で危険因子を評価し、リスクを層別化します。

1)冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞があるか?
  • あり→二次予防を行う
  • なし→2)へ
2)糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患のいずれかがあるか?
  • あり→高リスクに分類
  • なし→3)の判定基準に従い、リスクを分類
3)久山町研究のスコア①~⑥の合計点を算出
①性別
  • 女性:0
  • 男性:7
②収縮期血圧
  • <120mmHg:0
  • 120~129mmHg:1
  • 130~139mmHg:2
  • 140~149mmHg:3
  • 160mmHg~:4
③糖代謝異常(糖尿病は含まない)
  • なし:0
  • あり:1
④血清LDLコレステロール
  • <120mg/dL:0
  • 120~139mg/dL:1
  • 140~159mg/dL:2
  • 160mg/dL~:3
⑤血清HDLコレステロール
  • 60mg/dL~:0
  • 40~59mg/dL:1
  • <40mg/dL:2
⑥喫煙
  • なし:0
  • あり:1
4)スコアの合計から予測される10年間の動脈硬化性疾患の発症リスクを判定します。
久山町研究によるスコア 発症リスク 分類
40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳
0~12 0~7 0~1 - 2%未満 低リスク
13以上 8~18 2~12 0~7 2~10% 中リスク
- 19以上 13以上 8以上 10%以上 高リスク

6-3. リスクに応じた治療指針の決定

治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値(mg/dL)
LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C
一次予防 低リスク <160 <190 <150空腹
<175随時
>=40
中リスク <140 <170
高リスク <120
<100※
<150
<130※
二次予防 冠動脈疾患または
アテローム血栓性脳梗塞の既往
<100
<70※※
<130
<100※※

※糖尿病において、PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合に考慮する。
※※急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞のいずれかを合併する場合に考慮する

6-4. 併発症の管理目標の設定

高血圧、糖尿病、その他の疾患の管理目標を設定します。
本記事では詳細を省略します。

6-5. 生活習慣の改善|食事療法

脂質異常症の治療は食事療法が重要です。
脂質異常症の原因となる飽和脂肪酸、コレステロール、エネルギー量を制限します。

6-5-1. 飽和脂肪酸の制限

飽和脂肪酸を多く含む食材は以下のとおりです。

  • 肉の脂身(肉の白い部分、バラ肉、ひき肉、鶏皮など)
  • 卵黄
  • バター・ラード・生クリームなどの乳製品
  • パームヤシ・カカオの油脂
  • インスタントラーメンなどの加工食品
  • トランス脂肪酸を含む菓子類
6-5-2. 不飽和脂肪酸の摂取

不飽和脂肪酸はLDLコレステロールを減らす作用をもちます。
また青魚に多く含まれる多価不飽和脂肪酸はトリグリセライドを下げます。
ただしとりすぎるとエネルギー過多となるため、適量摂取が原則です。
不飽和脂肪酸を多く含む食材は以下のとおりです。

  • サラダ油・大豆油・コーン油・サンフラワー油・ひまわり油・魚油
  • まぐろ・しゃけ・さんま・あゆ・いわし・かつおなど
6-5-3. コレステロールの制限

コレステロールを多く含む食材は以下のとおりです。

  • 鶏卵の黄身
  • 魚卵
  • 牛乳・バター・生クリームなどの乳製品
  • 肉類・臓物類(レバーやモツなど)
6-5-4. エネルギー量の制限

エネルギー摂取量が過剰にならないように注意すべき食材

  • 甘いもの
  • 酒類
  • 油もの
  • 過剰な糖質
  • 砂糖の入ったソフトドリンク
6-5-5. ヨーグルトは食べてよい?

ヨーグルトは乳製品であり、飽和脂肪酸、コレステロールを多く含むため、脂質異常症の方は避けたほうがよいでしょう。

6-5-6. バナナは食べてよい?

バナナにはペクチンという栄養素が含まれます。
ペクチンは食物繊維の一種でLDLコレステロールを下げる効果があるため、バナナは食べてよいでしょう。
ただし食べ過ぎるとカロリー過多となるため、Ⅰ日Ⅰ本以内にしてください。

6-6. 生活習慣の改善|運動療法

中等度強度の有酸素運動を1日30分以上、できれば毎日、週180分以上続けることが推奨されます。
HDLコレステロールを増やし、トリグリセライドを減らす効果があります。
動脈硬化性疾患やメタボリックシンドロームを予防・治療します

6-6-1. 中等度強度の運動を推定する方法
1)運動時の脈拍から推定

心拍数(脈拍/分)= 138 - (年齢/2 )

2)自覚的な感覚から推定

楽である~ややきついと感じる程度

6-6-2. 有酸素運動の例

速歩、スロージョギング、サイクリング、水泳、社交ダンス、ベンチステップ運動など

6-7. 脂質異常症の治療薬

生活習慣の改善によっても脂質管理が不十分な場合、薬物療法を考慮します。
糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患のある方はでは、早期の薬物療法を考慮します。

6-7-1. 脂質異常症治療薬の種類
分類 特性 副作用
LDL-C TG HDL-C
スタチン ↓↓↓ 横紋筋融解症、筋肉痛、脱力感、肝障害、認知機能障害、空腹時血糖値及びHbAlCの上昇、間質性肺炎など
陰イオン交換樹脂 ↓↓ 消火器症状、脂溶性ビタミンの吸収障害、ジギタリス・ワルファリン作用の減弱
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 ↓↓ 消火器症状、肝障害、CK上昇
フィブラート ↓↓↓ ↑↑ 横紋筋融解症、肝障害など
ニコチン酸誘導体 ↓↓ 顔面紅潮、頭痛など
プロブコール - ↓↓ 可逆性のQT延長、消火器症状
多価不飽和脂肪酸 - - 消火器症状、出血傾向、発疹

↓↓↓:25%以上低下、↓↓:20~25%低下、↓:10~20%低下、↑↑:20~30%上昇、↑:10~20%上昇、ー:-10~10%の変化

各薬剤の効果と副作用を考慮しながら選択します。
高LDLコレステロール血症にはスタチンが推奨されます。

6-7-2. 主な脂質異常症治療薬
スタチン

プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン

陰イオン交換樹脂

コレスチラミン、コレスチミド

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

エゼチミブ

フィブラート

ベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート、クリノフィブラート

ニコチン酸誘導体

トコフェロール、ニセリトロール、ニコモール

プロブコール

プロブコール

多価不飽和脂肪酸

イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル

6-7-3. 脂質治療薬を服用している場合の注意点

シンバスタチン、アトルバスタチンなどを服用中は、グレープジュースの摂取を控えてください。
陰イオン交換樹脂を服用中は、併用する薬物の吸収減少や脂溶性ビタミンの欠乏に注意が必要です。

7. まとめ

脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態です。
LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常を含みます。

脂質異常症の自覚症状はほとんど全くありません。
しかし脂質異常症が長期間続くと、動脈硬化が進んで、動脈硬化性疾患を引き起こします。

冠動脈性疾患、脳梗塞の発症率や死亡率に影響します。
脂質異常症の原因は、過食、運動不足、肥満、喫煙、アルコールの飲み過ぎ、ストレスなどです。
脂質異常症においては、病気にならないように予防すること、病気の重症化を防ぐことが大切です。

危険因子の評価およびリスクを層別化し、リスクに応じて治療指針を決定します。
生活習慣の改善および薬物療法によって治療します。

安心するためにも、一度検査をされませんか?

何もなければ、「よかったですね」と安心してお見送りすることができますので。

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参考資料

  1. 脂質異常症 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
  2. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 - 日本動脈硬化学会
  3. 脂質異常症治療 のエッセンス|日本医師会 - PDF

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